「気象レーダーの二重偏波情報の高度利用の再開について」を読んで驚いた

気象庁が2026年2月10日に行った報道発表には、「本当に不具合の影響はなかったのか?」という疑問が残ります。

世間ではほとんど話題になっていませんが、わたしたちが考えなければならない重要な論点が含まれた報道発表なのです。

これを、気象予報士の立場から解説します。

この記事は、シリーズ 「速報版解析雨量の過大算出」を考える の第1回です。

令和8年5月下旬には、防災気象情報の体系が大きく変わります。この記事は、令和8年3月時点の情報体系に基づきます。

2026年2月10日の気象庁報道発表

気象庁は2026年2月10日に、「速報版解析雨量における気象レーダーの二重偏波情報の高度利用の再開について」という報道発表を行いました。

速報版解析雨量における気象レーダーの二重偏波情報の高度利用の再開について | 気象庁

報道発表の経緯

これは、半年ほど遡る、2025年7月31日の報道発表「速報版解析雨量の過大算出について」を受けて発表したものです。

速報版解析雨量の過大算出について | 気象庁

この報道発表は、2025年6月4日に導入したプログラムに、雨量(速報版解析雨量)を多く算出する不具合があったので、以前のプログラムに戻した、というものです。

プログラムに不具合が起こるのは仕方のないことです。そして、不具合があることを確認して、即座に以前のプログラムに戻す判断も、すばらしいと思います。

技術担当者の皆様に、心から敬意を表します。

とはいえ、不具合があって以前のプログラムに戻したのですから、当然、その不具合について調査して、必要な改修をすることになります。また、不具合による影響の有無を調査して、その結果を公表しなければなりません。

わたしは調査結果をずっと待っていました。

その調査結果が、冒頭に書いた、2月10日の報道発表です。

報道発表の概要

報道発表には、
(1)プログラムの改修が完了したため運用を再開すること
(2)雨量を過大に算出した期間の防災気象情報に特段の問題は確認されなかったこと
の2点が書かれています。

リード文を引用します。

 「速報版解析雨量の過大算出について」(令和7年7月31日報道発表)に関連し、速報版解析雨量において気象レーダーの二重偏波情報の高度利用を停止しておりましたが、このたびプログラムの改修が完了したため、その運用を2月16日13時から開始します。
 雨量を過大に算出した期間(令和7年6月4日から7月31日)の防災気象情報を確認したところ、特段の問題は確認されませんでした。

プログラムの不具合による影響は、報道発表の別紙に、次の3点に着目して書かれています。

 1 顕著な大雨に関する気象情報
 2 記録的短時間大雨情報
 3 キキクル等のその他のプロダクト

これらは、一貫して「不具合は降水量を過大に算出するものであったため、情報の発表漏れが無かった」とするスタンスが貫かれています。そして、このことから、「防災気象情報への影響については、特段の問題は確認されなかった」という結論が導かれています。

ここに疑問が生じませんか?

報道発表に対する疑問

「防災気象情報への影響」とは、まず第一に、直接的に情報の発表有無への影響です。そして、さらに考えなくてはならないのは、情報の発表による、情報を使う人(=国民)への影響です。

防災気象情報の中には、発表される情報そのものが住民の避難行動に直結するような、重要な意味を持つものがあります。

内閣府による「避難情報に関するガイドライン」では、住民がとるべき行動の目安となる「警戒レベル」を定めています。例えば、警戒レベル3は「高齢者等避難」、警戒レベル4は「避難指示」のように、です。

避難情報に関するガイドラインの改定(令和8年3月): 防災情報のページ - 内閣府 *1

図 警戒レベルと避難情報(内閣府・消防庁ポスター より引用)

その観点でみると、先程の3つの情報のうち、1と2の情報(顕著な大雨に関する気象情報、記録的短時間大雨情報)は、重要な気象情報ではありますが、直接的に警戒レベルと結びついている情報ではありません。

顕著な大雨に関する気象情報への影響

1の「顕著な大雨に関する気象情報」は、線状降水帯により非常に激しい雨が同じ場所で実際に降り続いている状況を解説する気象情報です。

線状降水帯に関する各種情報 | 気象庁

そもそも3時間に100ミリ以上の大雨となっていて、土砂災害や洪水害の危険度が警戒レベル4に相当する状況下で発表される情報です。

これらの災害の危険度が適切に予想されているならば、情報の発表に特段の影響はなかったと言えるでしょう。

記録的短時間大雨情報への影響

2の「記録的短時間大雨情報」は、数年に一度程度しか発生しないような短時間の大雨を、観測・解析したときに発表する気象情報です。

記録的短時間大雨情報 | 気象庁

報道発表によると、実際に発表した76回の記録的短時間大雨情報のうち、33回は実際には基準に達しなかったそうです。つまり、約43%は発表不要だったということです。ただし、そのうち30事例は1時間降水量が80ミリ以上の猛烈な雨が解析されています。

地域によって記録的短時間大雨情報の発表基準は異なっているので、猛烈な雨を解析したからといって、不要な情報発表が正当化されることはありません。しかし、この情報は、キキクル(危険度分布)*2 を確認するきっかけとして利用されることを想定しているので、キキクルさえ適切に予想されているならば、大きな問題とはならないでしょう。

キキクル等のその他のプロダクトへの影響

3の「キキクル等のその他のプロダクト」に対して、報道発表には、不具合は降水量を過大に算出するものであったことから、危険度の過小評価や警報等の発表漏れが無かったことを確認した、と書かれています。

また、キキクルの赤色(警報相当)以上の出現頻度が2%程度過大だったことを確認した、とも書かれています。

それだけです。

ここに大きな疑問が生じるのですが、その詳細は、第3回の記事で書く予定です。

次回の予定

次の第2回では、そもそも、「気象レーダーの二重偏波情報の高度利用」とはいったい何なのか? について書こうと思います。

 

⬇️ 次回(第2回)の記事

m-weather.hateblo.jp

 

ここまでお読みいただきありがとうございます。

*1:執筆時点では「令和3年5月改定、令和4年9月更新」版が有効です。令和8年5月下旬に「令和8年3月」版が適用されます。

*2:土砂災害、浸水害、洪水災害の危険度の高まりを面的に確認できる情報のこと。